それでも別にいい、とサイラスは思っている。
自身が秘密を抱えていたように、リアムもまた秘密を抱えていた。
秘密のないものなどどこにもいないのだ。不実を指摘したフィリップ自身も鷹の魔獣であることを伏せてヒトの世界に存在している。
それもまた欺瞞であると認めながら、サイラスは敢えて揚げ足を取らない。
信頼の姿はそれぞれの間で変わるものだとフィリップに告げたいのかもしれなかった。
「あれが他人の秘密をペラペラと語るような男に見えるのか、お前は」
「どうだろう。へらへらと受け流している風には見えるけれど」
「フィル。黙っておきたいこと、というのは誰しもあるものだ」
「そんな感傷の為に君が重犯罪に手を染めるのは僕は賛成出来ない」
それはヒトの世の秩序から外れる、ということの恐ろしさをフィリップも知っている、という暗黙の宣言だ。ヒトの世を好ましく思い、その中でヒトの社会を見てきた魔獣だからこそわかる。ヒトは秩序から逸れた存在に対してはどこまでも凶悪になれる。ようやく得た次のあるじをつまらないことで失いたくない、とフィリップの深紅の双眸が告げていた。
「共に旅をする、というのは君が考えている以上に重大なことなんだ。隠しごとをした相手の為に自分を売る、なんて一番してはいけないことなのじゃないかな」
「スティも同意見か」
「多分。おそらくは」
魔獣は嘘を吐かない生きものだ。つまり、彼らは心の底からあるじであるサイラスのことを案じている、ということを意味している。
ヒトの世を長く渡ってきた経験が魔獣たちの心を揺らす。ヒト二人の人生と、この世界にたった一つのあるじの安全を容易く天秤にかけて、後者を選んだ。そこには他意も悪意も害意もない。善意ですらなく、ただの防衛本能だ。大切なものを守りたい。それであれば、サイラスにその感情を否定するだけの理由もない。サイラスにとっては母親にも等しい相棒──テレジアのことを不意に思い出した。彼女もまたサイラスのことをよく心配してくれたものだ。
だから。
サイラスはあるじとして、友人としてフィリップの眉間から皺を取り除いてやりたいと純粋に思った。