「わたし」は最初からいないも同然だった。
「わたし」が存在するからには両親も存在しているのだろうけれど、「わたし」は親の顔も覚えていない。多分、生まれて初めて話した言葉が別離の挨拶だった。そんな状態だから兄弟姉妹がいたかどうかすら覚えていない。友人なんてもってのほかで「わたし」は淋しさという概念すら知らなかった。
「わたし」はいつもひとり。死なないけれど飢える程度にしか食事も与えられない。言葉は聞く一方で自分の声すら聞いたこともない。何もない時間だけが過ぎて、何もない毎日が明けて暮れる。
そして、両親が終焉を告げる言葉を「わたし」に投げる。
その言葉の持つ残酷さすら知らないで、俯くことも首肯することも知らないで「わたし」の人生は終わった。