「如風伝」第二部 九話

 失態を詫びるのが怖かった。
 お前など不要と罵られるのが恐ろしかった。
 「わたし」に与えられた役割を果たすことは「わたし」には不可能で、それと知っていても告解することも出来なかった。疾く去ね。そう言われることをただただ忌避して「わたし」はあたかも有能であるように振舞った。その結果、背負う荷がより重みを増すとわかっていても、「わたし」には真実の暴露をする勇気すらなかった。
 多くのものを不幸にしている。わかっていたが、「わたし」にはただ保身をする以外の選択肢などなかった。
 怨嗟が形を示すとき、「わたし」は排されるだろう。全ての失態の責任を負って追放されるだろう。
 命を失うその瞬間まで「終わり」がいつ訪れるのか。破滅が「わたし」をいつ責めるのか。
 疑心暗鬼に囚われて、人を愛する気持ちすら失って、それでも「わたし」はただ在り続けた。
 「わたし」の罪を代わりに背負う「誰か」のことに気付けないほど「わたし」は愚昧だった。
 愚かな「わたし」は断罪を恐れたままこの世を去る。そこにあったのは自己満足だったが、「わたし」はその愚かさが引き起こした新たな罪を認知することすらしないでこの世を去った。
 そう、これはその愚かさを償う為の負の連鎖だ。永遠に赦されることなどない、負の連鎖を抱えて「わたし」が去った世界はまだ回り続けている。

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