皆は「わたし」に願いを告げる。
自身のこと、家族のこと、お金のことや役目のこと。何でもかんでも皆は「わたし」の返答も待たないで願いを告げる。「わたし」は誰の願いも叶えない。願いの意味すら知らないから叶えようがない、というのが正しいのかもしれない。「わたし」に出来ることなど何もなくて、誰かを特別に助けることはもちろん、罰したり褒めたりだなんてどうすればいいのかも知らない。
なのに皆は勝手に喜んだり、悲しんだり、「わたし」のことを恨んだり、有難がったりする。
それがどういうことなのかも「わたし」にはよくわからない。
ただ、今日もまた朝が来て皆の願いを一方的に聞かされて日が暮れる。
そんな「わたし」の日常に「彼女」が現れた日から「わたし」はやっと世界と対面した。