裏切られるのなんて慣れたと思っていた。
信じても、信じても、信じても「わたし」はいつも裏切られる。そのことに不幸を感じていたわけではない。人は「わたし」の期待を満たせるほど有能ではない。それと知っていたから裏切られる度に「わたし」は思ったのだ。「わたし」はまだ人より秀でている、と。ここには「わたしを必要とするものがいる。「わたし」でなければならない。
そんな自己満足に自己陶酔して「わたし」は無為の日々を続けた。
人は低きに流れる。わかっていたのに「わたし」は少しずつ倦み始めていた。
もっと有意義に「わたし」を活かすもの、活かす場所がどこかにある筈だ。その妄執に囚われて「わたし」は現実から逃げ出した。
見せかけだけの美しい文句に惹かれて、心を傾けて、そうして「わたし」は知る。完全なる美などこの世にはない。誰もが理想の暮らしを送る、だなんていうのはただの絵空事だ。
だから、「わたし」は願うことを辞めた。元の場所に戻るのも、この場所で生きるのもそれほど変わりはない。今更帰りたい、だとか思ってもどんな顔をして戻ればいいのかもわからない。
せめて。
せめて何か功を立てたら。自分の手で何かを成したなら。
帰郷の念も許されるだろう。
そう思ってから、どのぐらいの月日が流れたのか。「わたし」はもうそれを数えることすら放棄した。
夜は明けない。
黎明が訪れるのは、一体いつなのだろう。