Wish upon a Star * 06:Believe in you

 始まりというのはいつも唐突にやって来る。いつの間にか始まっていて、過去を振り返ったときあの辺りが始まりだったのだろうなと推察することは出来ても、今、この瞬間にそうと知れることは殆どないだろう。

「私とテレジアもそうして時の流れに巻き込まれた、とでも言うのだろうな」

 テレジアが――「マグノリア・リンナエウス」があのとき木の枝から降ってこなかったら。サイラスが魔術の実験をしたのがあの場所でなかったら。あの夜、雪が降らなかったら。無数の「もし」を積み重ねても決して現実とは重なり合わない。全ての「もし」を否定して存在するのが今だ。だから。サイラスは今、自分に出来ることを考えていた。
 昔話の半分ほどを聞いたウィリアム・ハーディが先程からずっと手布で顔を拭っている。どうやら彼にとってサイラスとテレジアの身の上話は号泣の対象だったらしい。微苦笑して、それではまるでサイラスたちがソラネンの為に自己犠牲を払っていと認識されているみたいだ、だなんて否定して、まぁそれほど違いもないのではないか、と思うと苦笑に回帰した。

「おや? ボウヤのくせにあたしが道連れじゃ不服だって言うのかい?」
「いや。お前はいい旅連れだ。『マグノリア・リンナエウス』」

 人の姿をしているテレジアはいわば末端で、本体は「グロリオサ・リンデリ」がいたあの地下道の空間で眠っている。学術都市ソラネンは気候に恵まれたわけでもなく、屈強な騎士ギルドを擁するでもなく、聖騎士団の駐屯地の一つでもない。ハンターたちが好みそうな狩場が近くにあるわけでもなく、輝石が産出されるわけでも、巡礼地でもなく、この街で暮らす殆ど全員が「次の知識」を求めている探求者だ。そんなソラネンの街に安寧を与えていたのが地下道のモンスターとその契約者だということを街に暮らすものは誰も知らない。他の街と同じように外壁に守られ、騎士ギルドがあり、乗合馬車が毎日、毎日行き来する。魔獣たちとシジェド国王との交渉がきちんとなされているのだと信じているだけの住人を守ってきたのは魔獣の契約者が施した魔術的結界であることを誰も知らないのだ。それでいい、とファルマード司祭は言った。褒められたくてやっていることではない。見返りが欲しいわけでもない。ただ、ソラネンの街を愛しているから司祭はこの影の役割を五十年近く担ってきた。その結果、グロリオサと司祭の魔力が限界に達しようとしていた。魔獣たちはその終焉の日を虎視眈々と狙い、司祭の結界が弱ればソラネンの街を蹂躙するつもりだった、と司祭から聞いたときにはサイラスの肝が冷えた。敢えて城壁に穴を開け、結界の一部を綻ばせ、そうしてグロリオサは適当な獲物が罠にかかるのを待っていた。次の守護者たる資質のある魔獣の襲撃を。その罠にかかった獲物というのがテレジアだ。彼女もまた一頭の魔獣――ダラスであり、十年前のあの夜、確かにソラネンを襲撃しようとした。
 そんな過去をなかったことに出来るぐらい、サイラスとテレジアの中にはこの街への愛着がある。言うなればサイラスとテレジアは共謀者であり、この街の発展を誰よりも願っているのだから、当然と言えば当然のことだ。

「似たようなことを爺の司祭も言っていたねえ。あんたたちはもう少し女を見る目を養ったらどうだい」
「問題ない。お前は十分いい女だ」
「ボウヤ。言葉は正しく選びな。リアムのボウヤが大混乱しているじゃないのさ」

 自虐的に呟かれたテレジアの言葉を一刀両断して否定するのを聞いたリアムが目を白黒させる。サイラスが女性のことを褒めるのを初めて聞いたからだろう。性別という概念がない、とまではリアムも思っていないだろうけれど、サイラスが女性を女性として褒めることは殆どない。恋愛に興味が薄いサイラスにとって性別という概念はそれほど重要ではない、以上の理由はないのだけれどリアムにとっては一大事だったらしい。混乱で顔中を染めてそうして彼は言う。

「いいなぁ、女将は。俺だってセイにそんなこと言われてみたい」

 俺が女だったらよかったのかなぁ。そんなことを至極真面目な顔をして呟くものだから談話室の中には微笑みが充満した。

「あんたは十分特別だよ。この責任感の塊みたいな馬鹿なボウヤがあんたには話しても大丈夫だって信じてるんだから、それだけで相当なもんさね」
「そっかぁ。そんなものかなぁ」

 得心したとは言い難いけれど、どこか温かみを感じる表情でリアムがぼんやりと返事をする。その複雑な横顔に映っているものが負の感情ではないという確信を持ったサイラスが半ば自虐的にフォローを入れた。

「リアム、私にはお前以外の友人がいないのは知っていると思っていたが?」
「マクニールの坊ちゃんがいるだろ」
「マクニールは私のことを毛嫌いしている。こちらがどう思おうがやつには伝わらんよ」

 友情は一方通行では成立しない、と暗に含ませるとリアムは切なげに笑った。

「そう? 坊ちゃんはお前のことちゃんと気にしてくれてると思うよ。でなきゃあんな風に嫌いな相手に一方的にでも話しかけたりしないんじゃないかな」

 だから、セイ。坊ちゃんのこと嫌いじゃないならもうしばらく付き合ってやりなよ。言いながらリアムは自己嫌悪をしている。不器用なのか器用なのか判別に困ったけれど、それを個人の問題と切り捨てるほどにはサイラスも友人のことを無価値だとは思っていなかった。

「リアム、お前は変わったやつだ。私のようなものの身の上を思いやる優しさを持っているくせにお前自身には随分狭量なのだな」
「俺は恵まれてるから」
「その不器用な傲慢をやめろ、と私は言っているのだが?」
「何が」
「自ら誇ってもいないものを、周囲に合わせてさも価値のあるものを持っているかのように振る舞うのをやめろ、と言っている」

 誇りとは自らの中にあるものだ。誰かと比べるのは別にいい。比較して自分の中のどの高さにあるのかを計るだけならそれでいい。
 それでも。一般常識というあるようなないようなよくわからない枠を持ち出して、そこに全てを押し当てて納得も満足もしないまま、受動的に誇るのはやめろ、とサイラスは釘を刺した。その指摘にリアムは今にも泣きそうに顔を歪ませる。それほどつらいのなら、どうしてさっさとその檻から出てこないのだ。扉が開いているのに、どうしてそれを目視しないのだ。リアムの世界にサイラスがいないのだとしたら、それは多分、代え難い不幸だろう。その不安を拭いたくて少し語調が荒くなる。それでも、リアムは泣きそうな顔のまま笑った。

「でも、事実だろ」
「リアム。ひとつだけ言っておこう。真実は人の数だけ存在する」
「俺は客観的事実の話をしてるんだよ、セイ」
「では問おう。お前の言う客観の在り処はどこだ。偏った客観などこの世にはごまんとあるぞ。乱数が決して平等ではないように、客観など国、土地、時期、年代で幾らでも変わる。それでもお前はお前の思いを主観ではなく客観だと言うのか」
「やめてくれよ、セイ。俺には哲学なんて高尚過ぎて付いていけない」
「そうだな。理屈の話はお前には向かん。それで? お前には主観がないのか」
「いや、だから」

 小難しい精神論を聞きたくない、というのはリアムの性分で心からの申し出だろう。わかっている。こんな屁理屈を聞いて楽しいのは王立学院の哲学科か神教科の学者たちだけだ。

「私は何も全ての人類が遍く主体的でなければならん、などという高邁な理想論を説きたいのではない。お前の――ウィリアム・ハーディの気持ちはどうなのか、と問うているだけだ」

 利があるからサイラスの友人でいるのか。それならばこんな秘密の暴露をされたのは迷惑か。重責とは関わり合いたくないのなら、今すぐテレジアの魔術で記憶を消して寄宿舎から放り出すがどちらがいいのか。そこまで問うて、やっとリアムの表情に別の色が載った。

「だって」
「だって?」
「セイが悪いんだろ。そういう大事なこと五年も黙っててさ」
「それはすまなかったと詫びた筈だぞ」
「しかもさ、この期に及んでまだセイと女将と俺だけで解決しようとしてるとかさ!」

 事件の規模考えろよ、都市まるまるひとつ分を守護する為の魔力がどれだけかなんて俺にはわかんないけどさ、無理なんだろ。だから、女将が弱ってるんだろ。女将が弱ってるの察したからその女将じゃない方のダラスが来たんだろ。
 まくし立てるようにリアムの批難が速射される。わかっている。リアムの言い分が全面的に正しい。テレジアとサイラスの魔力ではファルマードのように五十年もこの街を守ることは不可能だ。分かっている。だから、誰かの協力を仰がなければならない。でなければ、あの夢の中のダラスがそう遠くない未来――三日後だ――にこの街を襲うだろう。あれはその予告だ。この街をマグノリア――テレジアが守っていると分かった上で魔力干渉をしてきたものがいるのだ。
 それでも。

「誰かが自分の人生を犠牲にこの街を守っていた、などと知らされて喜ぶものなどいるものか」
「喜ばす、だなんて俺は一言も言っていないだろ」
「ではどうするのだ」
「自分のことは自分で守る。当然のことだろ?」

 にっ、と悪戯げにリアムが微笑んだ。その中にはまだ悔しさと距離感への無力感が残っている。それでもリアムは笑った。笑ったのなら、サイラスもまた過去の遺恨からは一旦距離を置くべきだ。
 だから。

「だが、この街は学術的な意味で探求をしたいと思ったものの集まりだ。敵意を退けるすべを持つものなど限られている」
「うん、だから、皆でやるんだ」
「何を」
「セイ。セイは女将の契約者なんだろ」
「そう、だが」
「セイの魔力が安定したら女将の魔力も安定するんじゃないのか?」

 それはそうだ。ただ、今のサイラスにそれだけの余裕はない。ファルマードが見抜いたように魔力の器としてのサイラスは街一つ分を内包するに十分な素養を持っている。それが、トライスターの称号を受け、表立って魔術を行使する場面が増えた。魔術師を兼業することでサイラスの魔力の消費量が増えたのに追い打ちをかけるように、外部からの魔力干渉が大きくなったのが一番の痛手だろう。過去のことは変えようがない。それを前提に魔力不足をどうにかするとしたら、外部から供給を受けるしかないのだけれどそのすべがない。
 輝石というのは魔力を増幅する為の触媒であり、術者本人の魔力が枯渇していれば当然振幅は減少する。あくまでも触媒であって、魔力を供給する手段ではないのだ。
 サイラスが持っている魔力の器は、現在、半分か三分の一程度しか力を保有していない。魔術を一切使わずに自然回復を待つとすればゆうにあと半年は必要だろう。とてもではないが、それを待つわけにはいかない。
 何か別の方法でサイラスの魔力を回復させるすべを探すしかないが、現代魔術の術式では体力の回復を担うことは出来ても、魔力の回復は不可能だ。
 なのに。

「俺、自分では出来ないから具体的な方法はわかんないんだけどさ、あるんだろ」
「何が言いたい、リアム」
「古代魔術を使えば魔力共有が出来るんじゃないかって話だよ、セイ」

 お前の得意分野だろう、と言われた気がした。そうだ。その通りだ。古代魔術にはある魔力保有者から別の魔力保持者に魔力を共有する術式がある。ただ、この術式は精神力に大きな負荷がかかる。ときには片方、最悪の事例ならば両方の術者が命を落としたという記述も古文書の中には散見された。
 ゆえにこの術式を禁じ、古代魔術として封印したのが初代シジェド国王だ。それ以来、この術式が解禁されたことはない。王令で禁じられている術式を行使するのがサイラスだけであればそれほどに躊躇うこともなかっただろう。言い方は悪いがいつものことだ。事実が露見しても、サイラスがトライスターの称号と未来永劫別離し、死罪を受ければそれで終わる。
 けれど、リアムが言っているのはそんな規模の話ではない。
 ソラネンの街に住まう魔力保持者「全員」を対象として古代魔術を練り上げろというのがリアムの主張だ。そんなことは許されない。許されてはならないのだ。
 そんな無力感を覚えながら、サイラスは呟く。トライスターと呼ばれても、ソラネンの守護者と嘯いても、何の力も持たない。人々の安寧を守る為に人々を危険に晒すのはただの愚ではないのか。

「誰がそれを許すのだ」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。やるか、やらないかしかないんじゃないのか」

 リアムの言っていることの意味はわかる。最低限の犠牲を覚悟してでも全体の利益を追求する。それが一番効率的で建設的な意見だろう。
 それでも。
 サイラスは人を傷つける為に古代魔術を研究しているのではない。己の知的好奇心を満たし、その延長線上で人を守る為にサイラスの十年は費やされた。自分自身では判断出来ない、だなんていう無力感を味わったのは多分十年ぶりだろう。
 その十年を一緒に生きてきた共謀者の意見を聞きたいと素直に思った。

「テレジア、お前はどう思う」
「あたしはボウヤがいなけりゃ縄張りの張り方も餌の捕り方もわからなかった駄目なダラスだからねぇ。好きにおしよ」

 ボウヤが磔の目に遭うなら、あたしも付き合ってあげるよ。そうなるとソラネンは誰が守るのか心配だねえ、あたしには関係のないことだけど。
 言ってテレジアは柔らかく微笑む。
 毒づいてはいるが、これはサイラスへの励ましの言葉だ。要するにテレジアはサイラスの生き死にに添うからサイラスの思うようにやってみろ、と言っている。

「お前たちはそれでいいのか」
「何が?」
「破戒者の烙印を背負って、それでもなお生きることへの覚悟があるのか」
「セイ、それはお前にだけは言われたくないよ、俺」
「一都市規模で禁忌を犯して何の咎めもないとは考えられん。生きる為に罪を背負って、そうして生きることを嘆くのならここで皆滅ぶのも選択肢の一つではないのか」
「セイ、そういうのはやってみないとわからないもんだよ」
「やらずとも明白なことだ」

 ソラネンの街にいる魔力保持者の全員が全員、この計画に賛同するとも限らない。賛同者の数にもよるが、一部のものだけでは到底、中途半端な術式にしかならず、結局は皆共倒れだ。
 その危険を背負ってでも実行する覚悟をソラネンの住人に強いることはサイラスの本意ではない。
 そう告げるとリアムとテレジアはそれぞれのかたちで苦笑を浮かべた。

「セイ、この街で一番の死にたがりはお前なんだから、お前以外の殆ど全員は明日も明後日もひと月後も一年後も生きていたいんだよ」
「そうさね。あんたの消極的な自暴自棄に付き合ってやろうなんて懐があるのはあたしぐらいのもんさ」
「だが」
「でも、も、けど、も全部ないんだ。セイ、俺を信じてくれたなら俺の意見も信じてくれよ。きっと、ソラネンの皆もそう思ってるんじゃないかな」

 サイラスが皆の安全と安寧を願うようにソラネンの街もまたサイラスがその一部であることを望んでいる。そんな言葉が聞こえてサイラスは両目を軽く見開いた。
 いてもいいのだろうか。この場所はサイラスにとって試練の場だと思っていた。自らを高め、研鑽し、奉仕する。その代わりにサイラスはここにいる権利を守られているのだと思っていた。その、代償の部分を誰かと共に背負ってもサイラスはここにいてもいいのだろうか。
 リアムは柔らかい声で言った。

「俺はセイのいないソラネンなんて旅する価値がないよ」

 セイがいるってわかってるから俺はソラネンに来るんだ。
 言われてサイラスは横面を張られたような衝撃を受ける。多分、それは言い過ぎだろう。誇張表現というやつだ。わかっている。それでも、リアムの中でサイラスの存在がソラネンの一部であると認識されているという事実に胸が詰まりそうだった。自己犠牲を褒めて欲しいのじゃない。感謝をされたいのでもない。ただ、ここに在るということを受け入れ、ここにあるということを認めて欲しかった。その、世界の一隅にサイラスがいる。これ以上の報恩など決してあるまい。

「じゃあリアムのボウヤは来年からあたしの宿に泊まるんじゃないよ」
「違う! そうじゃない! 女将の宿は居心地がいいから出来ればここに泊めてくれよ!」
「あんたもボウヤと同じで応用力のない馬鹿だね」
「馬鹿に馬鹿っていうやつが一番馬鹿なんです!」

 今、そんなじゃれ方をして遊んでいる場合ではないのがわかっているのか、と口をついて出そうになる。わかっている。二人ともサイラスの向こうの未来を双眸に映した。先のことが見えたから、少し気持ちに整理が付いたのだろう。彼らには今、僅かだけれど余裕がある。
 だから。

「いいかい、ボウヤ。この問題が解決したらあんたは自由にソラネンの街を出ていけるかもしれないじゃないか。そうなったら、リアムのボウヤとたくさん旅をおし。あたしの知らない外の世界を見て、聞いて、そしてあたしにも教えておくれでないかい」
「私だけが自由になって、お前はそれで恨まないのか『マグノリア・リンナエウス』」
「本来ならあたしは十年前のあの夜、死んでて当然なのさ。あんたに救われた命なら、あんたの為に使ってやりたいじゃないか」

 魔獣の名は皆植物の名に由来する。魔獣そのものが長齢の植物から生み出されるからだ、とか、それらの長齢にあやかりたいからだ、とか古文書には様々な理由が記されていたがサイラスは正答を未だ知らない。知らないが、それゆえに知っている。木蓮の名を戴いたサイラスの相棒はサイラスの最良を心から願ってくれている。テレジアという名にマグノリアを封じたのはサイラスだ。なのに彼女はサイラスの多幸を願ってくれる。
 そんな小さな祈りを踏み砕かなければ前に進めない、などと言わなくてもいいぐらいにはサイラスにも強さがある。
 だから。

「リアム。国というのは何だと思う」
「だーかーらー、俺に哲学の話をするのはやめろって言ってるだろ!」
「思うに『国』というのは『人の集まり』ではないか。であれば、『人を守る』為に国の戒律を破ることは決して国を裏切ったことと同義ではないのではないか」
「……俺の話、全無視かよ。ああ、そうだな! お前の言う通りだよ」

 人を守る為の規律が人を殺めるのであればそれは本末転倒も甚だしい。
 であればサイラスたちが今から犯す愚には価値があるだろう。後世の人間がどう評するのかはこの際どうでもいい。生きて、その評を待てなければ結局は何の意味もない。
 生きている、というのはそれだけ尊いことだというのをサイラスは知っていた筈なのにこの十年の間で少し縁遠くなっていた。サイラスは生きている。生きて、ソラネンの街に恩を返している途中だ。最後まで報恩したければ些事に拘っている場合ではない。
 そう、思い出した。
 サイラスの双眸に覚悟の光が灯る。それを視認した二人が顔を見合わせて苦笑して、そうして三人は一世一代の大悪党になる為に談話室を出た。行こう。この石畳の上に血を流してはならない。朝の色が少しずつ輪郭を鮮明にする。ソラネンの未来を懸けた三日間が始まろうとしていた。